御消息等

■御正忌報恩講でのご門主法話(ご親教)〔2017(平成29)年1月15日御影堂にて〕

  虚偽あふれる時代に、真実を味わう
 
         
   本年も、ようこそ御正忌報恩講にご参拝くださいました。全国から親鸞聖人をお慕
  いする皆さまがご参拝くださり、ご一緒におつとめをし、お念仏申させていただく、
  尊いご縁であります。このご縁にあたり、あらためて親鸞聖人がお説きになった浄土
  真宗のみ教えを味わわせていただきましょう。
   親鸞聖人は、比叡山で20年間修行をされました。しかし、煩悩がなくなることは
  なく、自己中心的な身であることに悩まれました。明日おつとめいたします『嘆徳文
  (たんどくもん)』には親鸞聖人のおこころを、「定水(じょうすい)を凝(こ)ら
  すといへども識浪(しきろう)しきりに動(うご)き、心月(しんがつ)を観(かん)
  ずといへども妄雲(もううん)なほ覆(おお)ふ」(『註釈版聖典』1077頁)と
  記されています。平らな水面を見ると波が立ち、月をみると雲に覆われてしまうとい
  うことであります。
   親鸞聖人だけでなく、仏教を説かれたお釈迦さまの時代から、私たち人間の姿は変
  わりありません。それは、真実をありのままに受け止めることができず、自分の思い
  や執(とら)われの中で、悲しみ、苦しむ姿であります。
   親鸞聖人は、そのような私たちに対して、阿弥陀さまがはたらきかけてくださって
  いると明らかにされました。阿弥陀さまのおはたらきの中で、私たちは真実を聞き、
  真実に気付くことができます。そのことによって、自分自身のありのままの姿、自己
  中心的な姿を知ることができます。
   現代は、先のことを予測することが難しい、不確かな時代です。そして、嘘(うそ)
  や偽りを含む多くの情報があふれています。
   昨年1年間で注目を集めた英単語として「post(ポスト)―truth(トゥ
  ルース)」、「ポスト真実」という言葉が選ばれたという新聞記事がありましたが、
  それは、客観的な事実や真実が重視されず、感情的な訴えが政治的に影響を与える状
  況を意味する形容詞だそうです。これを受けて後日の新聞には、アメリカ大統領選挙
  を具体例として、「ネット社会では〝脱真実情報〟が無料で拡散され、シェアされれ
  ば虚偽も〝真実〟に転化する」という記事が掲載されていました。
   そのような時代であるからこそ、親鸞聖人の「煩悩具足(ぼんのうぐそく)の凡夫
  (ぼんぶ)、火宅無常(かたくむじょう)の世界は、よろづのこと、みなもってそら
  ごとたはごと、まことあることなきに、ただ念仏のみぞまことにておはします」(『
  註釈版聖典』853ページ)、「私どもはあらゆる煩悩をそなえた凡夫であり、この
  世は燃えさかる家のようにたちまちに移り変わる世界であって、すべてはむなしくい
  つわりで、真実といえるものは何一つない。その中にあって、ただ念仏だけが真実な
  のである」というお言葉を深く味わわせていただきましょう。
   本日は、ようこそご参拝くださいました。
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